大阪高等裁判所 昭和46年(う)1330号 判決 1973年4月09日
本店所在地
大阪市西成区津守町東七丁目一九五番地
株式会社津守自動車教習所
右代表者代表取締役
中谷春雄
本籍
東大阪市大字吉原九四
住居
大阪市住吉区帝塚山西三丁目七六番地
会社役員
中谷春雄
昭和六年八月二五日生
右両名に対する法人税法違反被告事件について、昭和四六年九月二〇日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、被告会社および被告人から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。
検察官 竿山重良、石井寛 出席
主文
原判決を破棄する。
被告会社株式会社津守自動車教習所を罰金三〇〇万円に、被告人中谷春雄を罰金五〇万円に各処する。
被告人中谷春雄において右罰金を完納することができないときは、金二、五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人大槻竜馬作成の控訴趣意書および検察官竿山重良、弁護人笠松義資、同大槻竜馬連名作成の合意書一項各記載(控訴趣意書中、速成科の売上金除外については、右合意書一項記載の如く訂正し、簿外修理費については、原判示第一の事実関係で主張した二、〇〇〇、〇〇〇円のうち八〇〇、〇〇〇円について主張を撤回し、簿外寄附金についての主張はすべて撤回した。)のとおりであるから、これらを引用し、これに対する検察官の答弁は、事実誤認の点については、然るべく判断されたい、との趣旨であり、量刑不当の点については、検察官竿山重良作成の答弁書記載のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴趣意中、事実誤認の主張について。
論旨は、要するに、原判決は、速成科の売上金除外額につき、昭和四〇年一月から同年八月までの八ケ月間の本勘定計上金額に対する売上金除外率三五一パーセント(売上金に関する正確な資料に基づいて算出した率)を原判示各事業年度を通じ一率に適用して売上金除外額を算出したものと思われるが、売上金除外は各事業年度を通じ終始一定の比率を保つてなされていたわけではなく、売上金が増加して除外をし易い時期には除外率も上昇するものと考えるのが合理的であるところ、昭和四〇年度は速成科入所生の数が頂点に達し売上が最も多い時期であつたから、同年一月から同年八月までの売上金除外率を各事業年度全期間を通じて適用するのは明らかに不合理であり、公表売上金額の上昇傾向や年度別運転免許交付状況等に照らして考察すると、昭和三八年一月一日(売上金除外を始めた月)以降昭和三九年一二月三一日までの間の売上金除外率は、昭和四〇年一月一日から同年八月までの八ケ月間の最低率の月である同年一月分の除外率二九二パーセントと推定するのが合理的であり、次に、原判決は、簿外の交際接待費については、各事業年度共年額一、二〇〇、〇〇〇円が支出されたものと認定しているが、被告会社は、右以外に大内薫に対し各事業年度を通じ年額一、二〇〇、〇〇〇円を支出しており、又、簿外の賞与手当の支給については、原判決はこれを全く認容していないが、被告会社は原判示第一の事業年度においては一、二七一、〇〇〇円を、原判示第二の事業年度においては一、一四〇、〇〇〇円を、原判示第三の事業年度においては一、〇四四、〇〇〇円をそれぞれ簿外の賞与手当として支給しており、さらに、簿外修理費の支出についても、原判決は、これを全く認容していないが、被告会社は、原判示第一の事業年度においては一、二〇〇、〇〇〇円を、原判示第三の事業年度においては一、一〇〇、〇〇〇円をそれぞれ簿外修理費として支出しており、これらの点に基づいて計算すると、被告会社の犯則所得金額は、原判示第一の事業年度においては五、七〇三、三三九円、原判示第二の事業年度においては一一、一五八、〇二八円、原判示第三の事業年度においては一二、八〇七、三一二円となる、というのである。
そこで、所論にかんがみ、記録を精査しかつ当審における事実調べの結果を参酌して検討するのに、後記証拠の標目中の各証拠殊に当審において取り調べた検察官および弁護人連名作成の前掲合意書に照らせば、所論の各点についての原判決の認定はいずれも誤りであり、所論の如く認定するのが相当と思料される。そうすると、原判決はこれらの点につき認定を誤つた結果、被告会社の各事業年度の犯則所得額ひいては脱税額につき事実を誤認したものといわなければならず、右の誤認は判決に影響をおよぼすことが明らかである。
よつて、その余の論旨である量刑不当の論旨に対する判断をするまでもなく原判決は破棄を免れないがら、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所はさらに次のとおり判決することとする。
(罪となるべき事実)
原判示第一の事実中、所得金額一〇、〇二一、三三三円を五、七〇三、三三九円と、法人税(額)三、七〇八、〇九〇円を二、〇六七、二五〇円と、原判示第二の事実中、所得金額一四、九七八、三五六円を一一、四八三、四九六円と、法人税額五、五四一、五四〇円を四、二一三、四八〇円と、秘匿所得金額一四、六五二、八八八円を一一、一五八、〇二八円と、法人税五、四三四、三七〇円を四、一〇六、三一〇円と、原判示第三の事実中、所得金額一八、〇九一、七〇三円を一四、四九二、三六六円と、法人税額六、五〇二、五七〇円を五、一七〇、七九〇円と、秘匿所得金額一六、四〇六、六四九円を一二、八〇七、三一二円と、法人税五、九九一、五八〇円を四、六五九、八〇〇円とそれぞれ訂正するほかは、すべて原判示と同一であるから、これを引用する。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一、会社登記簿謄本
一、会社定款写
一、被告人中谷春雄の原審第一四回公判調書中の供述部分
一、同被告人の当審公判廷における供述
一、同被告人の検察官に対する昭和四一年一〇月一三日付および同年同月一七日付各供述調書
一、同被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書三通
一、中谷芳雄の検察官に対する供述調書三通
一、同人に対する大蔵事務官の質問てん末書三通
一、梅沢宏の検察官に対する同年同月一四日付および同年同月一九日付各供述調書
一、同人に対する大蔵事務官の質問てん末書
一、証人中谷卓郎の当審公判廷における供述
一、原審第九回公判調書中証人小林健次の供述部分
一、原審第一一回公判調書中証人大内薫および同中川毅の各供述部分
一、大阪自動車学校協会作成の年度別運転免許交付状況表
一、検察官豊島時夫、弁護人大井勝司、同大槻竜馬連名作成の合意書
一、検察官竿山重良、弁護人笠松義資、同大槻竜馬連名作成の合意書
一、法人税確定申告証明書綴三冊
判示第一および第三の各事実につき
一、原審第八および第九回各公判調書中証人中谷卓郎の供述部分
一、原審第一二回公判調書中証人梅沢宏の供述部分
一、原審第一三回公判調書中証人浜田新吾の供述部分
一、中谷卓郎作成のコース修理明細表
一、梅沢宏作成の「津守自動車教習所コース」と題する図面四葉
一、大阪府警察本部交通部運転免許課長作成の証明書写
一、大阪府警察本部交通部自動車運転免許試験場長作成の通知書写三通
一、梅沢宏作成のコース変更工事完成届写
判示第一の事実につき
一、押収にかかる総勘定元帳一冊(大阪高等裁判所昭和四六年押三六二号の五)
一、押収にかかる売上日記帳一綴(前同押号の六)
一、押収にかかる入所申込書綴三六綴(前同押号の一一)
一、押収にかかる入金記録ノート一冊(前同押号の一二)
一、押収にかかる配車表二綴(前同押号の一四)
判示第二の事実につき
一、押収にかかる元帳一冊(前同押号の三)
一、押収にかかる売上日記帳一綴(前同押号の四)
一、押収にかかる入所申込書綴八八綴(前同押号の九、一〇)
一、押収にかかる入金記録ノート一冊(前同押号の一二)
一、押収にかかる配車表二綴(前同押号の一四)
判示第三の事実につき
一、押収にかかる元帳一冊(前同押号の一)
一、押収にかかる売上日記帳一冊(前同押号の二)
一、押収にかかる入金記録ノート一冊(前同押号の一二)
一、押収にかかる領収証控六冊(前同押号の一三)
一、押収にかかる入所申込書綴一三二綴(前同押号の八ないし一〇)
一、押収にかかる配車表二綴(前同押号の一四)
一、銀行預金調査書類
なお、右証拠によつて認定した各事業年度の犯則損益の計算およびこれに基づく脱税額の計算等は別紙計算書記載のとおりである。
(法令の適用)
被告会社株式会社津守自動車教習所の判示所為中、第一および第二の各所為は、法人税法(昭和四〇年法律三四号)附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律二八号)四八条一項、五一条一項に、第三の所為は法人税法(昭和四〇年法律三四号)一五九条一項、一六四条一項にそれぞれ該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告会社を罰金三〇〇万円に処し、被告人中谷春雄の判示所為中、第一および第二の各所為は法人税法(昭和四〇年法律三四号)附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律二八号)四八条一項に、第三の所為は法人税法(昭和四〇年法律三四号)一五九条一項にそれぞれ該当するところ、本件犯行の動機、方法がさほど悪質とは認められない点、脱税額も他の法人税法違反事件に比して多額とはいえない点、同被告人は、本件につき査察を受けた後は十分改悛し、更正決定どおりの追加税、重加算税、延滞金等を完納し、税理士の指導のもとにいわゆるガラス張りの経理を行なつている点等諸般の情状を考慮すれば、同被告人に対しては罰金刑をもつて処断するのが相当と思料されるので、右各罪につき所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるので、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告人を罰金五〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金二、五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三木良雄 裁判官 高橋太郎 裁判官 角敬)
右は謄本である。
同日同庁
裁判所書記官 武下博文
脱税額計算書
自 昭和37年9月1日
至 昭和38年8月31日
<省略>
税額の計算
<省略>
脱税額計算書
自 昭和38年9月1日
至 昭和39年8月31日
<省略>
税額の計算
<省略>
脱税額計算書
自 昭和39年9月1日
至 昭和40年8月31日
<省略>
税額の計算
<省略>